令和の判例(その1)〜「再転相続」における「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは?
令和元年8月9日に最高裁が「再転相続」の際に、「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意味を、「親の死亡時」ではなく、「相続の事実を知った時」という解釈を明らかにしました。
実務では当たり前のように再転相続の場合は、新たな相続人を基準として3か月以内であれば、相続放棄を受理しているのですが、今回の最高裁の決定は、この相続放棄の有効性を再認識させるものでした。
このケースは、伯父から借金を相続した父親が、相続放棄をする前に亡くなってしまい、二次相続が発生し、新たな相続人である子が相続放棄をすることができる期限について争われていたものです。このケースでは父親が死亡した3年後に債権者から請求を受けたために問題が表面化したものと思われます。なお、伯父が亡くなった4か月後に父親が亡くなっているのですが、父親は、伯父の子らが相続放棄をしたため、自分に相続が生じていることは分からなかったと考えているようです。
相続を放棄するためには、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、相続放棄をしなければなりません(民法915条1項)。
また、相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条1項の期間は、その者の相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する(民法916条)とあります。
従って、今回の最高裁判決というのは、「再転相続」における「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意味をどのように解釈するかが問われたものでした。916条は、従来より915条の特例と考えられており、第一の相続人(本ケースの場合は父親)が3か月の熟慮期間中に承認も放棄もしないで亡くなった場合に、第二の相続(再転相続)の相続人が第一の相続を承認・放棄するかを決める熟慮期間は、相続人自身の「自己のために相続の開始があったことを知った時」と考えられています。これは父親の熟慮期間の残りを引き継いでしまうと、相続人にとって、熟慮期間があまりに短くなってしまうからです。
今回の最高裁第二小法廷の判決では、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知ったとき(昭和57年最高裁判例)を前提としつつ、民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、「相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいう」ものと解すべきとしました。
つまり、本件の相続放棄の有効性を認めました。親族間の交流が減ってきており、近親者といっても財産の把握が難しくなっている今日において、きわめて常識的な線を打ち出したものといえます。
ちなみに、伯父の相続放棄をした場合も、後に亡くなった父親の相続をする権利を失うことはありません。
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